【第3回会合】『生薬資源の現状と課題(安定的確保と地域振興に向けて)』概要

平成21年度厚生労働科学研究費補助金による厚生労働科学特別研究事業

『漢方・鍼灸を活用した日本型医療創生のため調査研究』

【第3回会合】『生薬資源の現状と課題(安定的確保と地域振興に向けて)』概要

日時:2010年1月25日(月)10時~12時

場所:慶應義塾大学医学部・新教育研究棟講堂1

出席者リスト(当日の出席者は氏名の左に○印)

1.研究員

○黒岩 祐治

(班長)

国際医療福祉大学大学院 教授
石野 尚吾 昭和大学医学部第一生理学 教授
○合田 幸広 国立医薬品食品衛生研究所生薬部 部長
宮野  悟 東京大学医科学研究所ヒトゲノムセンター 教授
北村  聖 東京大学医学部医学教育国際協力センター 教授
○木内 文之 慶應義塾大学薬学部天然医薬資源学講座 教授
西本  寛 国立がんセンター がん対策情報センター

がん情報・統計部院内がん登録室

室長
○渡辺 賢治 慶應義塾大学医学部漢方医学センター センター長

准教授

塚田 信吾 日本伝統医療科学大学院大学 教授
関  隆志 東北大学医学部先進漢方治療医学講座 講師
○阿相 皓晃 慶應義塾大学医学部漢方医学センター 教授
天野 暁 東京大学・食の安全研究センター 教授

2.研究協力者

大竹 美喜 アメリカンファミリー生命保険 最高顧問
○涌井 洋治 JT 会長
○丹羽 宇一郎 伊藤忠商事 取締役会長
○新井 良亮 JR東日本 代表取締役副社長
原  丈人 デフタ・パートナーズ

アライアンス・フォーラム財団

会長

代表理事

○武藤 徹一郎 癌研究所有明病院 メディカルディレクター・名誉院長
清谷 哲朗 関東労災病院 特任副院長
○阿川 清二 鹿島建設 医療福祉推進部 ライフサイエンス推進室 室長
○長野 隆 オリンパス ライフサイエンスカンパニーMIS事業部バイオ国内営業グループ グループリーダー
石田 秀輝 東北大学環境科学研究科 教授
○清水 昭 ヘルスクリック

エミリオ森口クリニック

代表取締役

院長

○安永 大三郎 日本シルクバイオ研究所

株式会社ウィズラブ

代表取締役
○岡崎 靖 日本製薬工業協会 研究振興部長

3.プレゼンター等(上記1、2掲載分を除く)

○浅間 宏志 日本漢方生薬製剤協会・生薬委員会 委員長
○小野 直哉 未来工学研究所・21世紀システム研究センター 主任研究員
○杉本 敬次 経済産業省・地域経済産業グループ・地域経済産業政策課 課長補佐
○細川 孝 経済産業省・地域経済産業グループ・地域経済産業政策課 係長
○仲家 修一 農林水産省・農村振興局・都市農村交流課 課長

Ⅰ.概要

1.  安心・安全な生薬を安定的に確保するためには、今後国内生産を積極的に進めていく必要があることについては全員の意見の一致が得られた

2.  また、(1)その方法としては、従来型の農業を活かした遊休地利用・転作の活用のほか、植物工場・バイオ技術といった新技術を活用した方策なども考えられること、(2)こうした国内生産のための様々な方策がビジネスとして成り立つようにするためにも、国として戦略的に産業政策を進める必要があり、関係省庁が連携して施策を進めていくべきであること、についても共通認識がみられた

3.  栽培をすすめていくにあたっては生薬の品質保証が重要であって、天然の生薬と同等の有効性・安全性が確保できるようにする必要があること、また、同時に生薬原料の品質評価方法を確立することが重要である、との指摘がみられた

4.  資源保護・伝統的医療の国際ルール作りについては、生物多様性条約のほか、WHOやISO(国際標準化機構)等、色々な場で議論されていることから、政府としてはそれらを有機的・総合的に捉え、対処していく必要があるとの問題提起があった

Ⅱ.プレゼンテーション

1.生薬資源供給の現状(浅間氏)[資料PDF]

(1)生薬は、植物由来のもののほか、鉱物・動物由来のものあり、調合・抽出・乾燥といった工程を経て漢方エキス製剤に加工されるほか、煎じ薬にも用いられる。日本漢方生薬製剤協会では、現在の中長期事業計画において原料生薬の安定確保を第一の目標としている。

(2)漢方製剤等の生産金額をみると、小柴胡湯の副作用の問題から一旦減少したのち、近年微増傾向にはあるが、市場規模は約1,200億円(医薬品全体<6兆円>の約2%)に過ぎない。医師の7割が臨床で使っている割に金額シェアが低いのは薬価が低いことが要因であるとも考えられる。

(3)一方、漢方製剤(及びその原料の生薬)の使用量は近年着実に増加している。生薬の供給は中国産を中心とした輸入品に大きく依存しており、自給率は約14%という統計があるが、現在、日本漢方生薬製剤協会であらためて医薬品原料としての使用実態を調査しており、今回の特別研究の中で報告できるようにしていきたい。

(4)生薬(植物由来のもの)の生産面をみると、気候・土壌の違いなどから「適地適作」がなされているが、野生・天然のものが減少し、今後は栽培を主体にしていくことを考えていかざるを得ない。もっとも、収穫までの年数、採取・加工といった手間も相当かかるほか、医薬品であることから残留農薬等厳格な品質規格が定められている。こうしたこともあって、国産は中国産と比べ価格の高いものが多いが、中国産も近年は価格が上昇傾向にある。各企業では、現在、内外の生産者と連携しながら生薬の栽培化をすすめており、品質・数量両面での原料生薬の安定確保に努めている。

(5)今後とも、内外を問わず種苗の確保と栽培技術を確立すること、そして生産コストを引き下げるための研究が重要である。これらのためにも、日本の医療において漢方医学が欠かせないという国民理解が不可欠である。

2.生物多様性条約が日本の伝統医学に与える影響(小野氏)[資料PDF]

(1)1992年に採択された生物多様性条約(日本は93年に批准)は、生物多様性の包括的保全のための新たな枠組みであるが、この条約を理解する上では「生物の遺伝的資源」と「伝統的知識」の二つがキーワードとなる。

(2)すなわち、当条約の目的には、「(a)多様な生物の保全」、「(b)持続可能なかたちでの生物資源の利用」、とともに、資源国(発展途上国中心)が主張する「(c)遺伝資源の利用から生ずる利益の公正な配分」という、他の生物保護の条約とは異なる色彩の要素が入っており、今秋の名古屋で開催される第10回締約国会議(COP10)でも「遺伝資源へのアクセスと利益配分」(ABS)に関する国際的枠組み作りが議論の焦点となる。

(3)COP10で想定される具体的な争点としては、(a)特許等を申請する場合には、利用した生物遺伝資源の出所開示を求めることと、(b)伝統的知識についての知的財産保護の二つがあり、日本及び米国がこうした出所開示には反対している(EUは条件付き賛成の立場)ものの、米国は条約批准国ではないことから、日本にとっては厳しい交渉になろう。

(4)このように、当条約が日本の伝統医学に与えうる影響としては、(a)絶命危惧腫の生物遺伝資源の輸出制限による生薬の不足、(b)生物遺伝資源の出所開示要求による研究活動の制約、が考えられるほか、今後の議論の動向次第では(c)伝統的知識に関しても同様の出所開示要求が課されることにより研究活動にも制約が及ぶ可能性がある。当条約の交渉状況については、東洋医学にとっても関係が深いものとして高い関心を持ってほしい。

3.バイオからの生薬産業(安永氏)[資料PDF]

(1)天然生薬の「冬虫夏草」(コウモリガの幼虫や蛹に寄生したキノコ菌の一種が発芽したもの)は、砂漠化の進展で収穫が激減している一方、需要が増加している中で、極めて高価になっている。「冬虫夏草」は人工栽培が出来ないが、同種同系統の菌種を蚕の蛹に人工的に寄生させて育てた「サナギタケ冬虫夏草」(キタ冬虫夏草)は、安価のみならず、有効成分でみても「冬虫夏草」を凌駕する優れたものである。

(2)中国・韓国でもこれに注目して生産しているが、当社独特の「無菌養蚕システム」を活用すれば、場所を問わず年中生産が出来る(中国・韓国では年4-5サイクルに留まる)ほか、キノコの生育率も97%と高く(中国・韓国では40%以下)、圧倒的に低コストで大量かつ安定生産が可能となる。また、こうした蚕の生育プロセスを活用して他のキノコ類もつくり始めている。

(3)国内での生薬栽培が衰退した主な原因は薬価が安すぎて中国産の輸入にシフトしたことが大きいが、国内での栽培を再び発展させるためには、取引環境が整備されなくてはならない。すなわち、(a)流通ルートが整備されること、(b)生薬の品質基準と格付けがきちんとなされること、(c)監督諸官庁の様々な規制が見直されること、そして、(d)それぞれの産地の個性化・ブランド化を推進することである。国立資源研究所??と連携して研究に取り組んでいく必要がある。

4.植物工場の現状と可能性(杉本氏)[資料PDF]

(1)経済産業省は農林水産省とともに、第一次産業と商工業との連携を強化して相乗効果を発揮させ、地域活性化にも繋げるべく、様々な連携促進策・支援策を講じているが、高度な環境制御を行って農産物の計画生産を行う「植物工場」の推進もその一つである。

(2)「植物工場」には、太陽光を全く用いない「関税人工光型」と「太陽光利用型」の2種類があり、既に全国で50箇所程度稼働している。

いずれもメリットとしては(a)天候の影響を受けずに年中安定した生産が出来ること、(b)場所を問わず狭い土地を効率的に利用出来ること、(c)生育環境を制御することにより安定した品質を実現できること、(d)無農薬で安全安心であること等があるが、初期投資を含め生産コストが高く、水耕栽培であることから根菜等が技術的に無理であるほか、消費者に遺伝子組替え食品と誤解されるなど、今後クリアすべき課題も多い。

(3)こうしたことを踏まえ、両省では「3年間で全国の植物工場を3倍増やし、生産コストを3割削減させる」との目標を掲げ、産・学・官が一体となって、普及キャンペーンや技術開発・指導、資金補助等の支援策を展開している。

(4)「植物工場」の今後の高付加価値化の可能性として、(a)医薬品原料等を生産する遺伝子組換え植物を使った栽培(インターフェロンをイチゴから抽出)、(b)土壌タイプの実用化による根菜類の栽培、(c)水の循環利用を活用した中東諸国等へのプラントとしての輸出等に向けて、開発・研究を進めている。

(5)「植物工場」では、生育環境を制御できること、安定生産が可能であること、栄養素(有効成分)を高めることが出来ることに鑑みるに、国内での生薬栽培に向けた政策と連携していく余地はある

Ⅲ.討議

1.生薬産業の成長性と利益性

・ 農業でも同様であるが、産業は儲からないと衰退していくのであって、政府が半永久的に支援を続けていくというビジネスモデルには限界がある。生薬産業は利益の出る産業なのか、現状認識・市場規模などはどうなのか。利潤が出ないのは薬価や規制の問題なのか。そういった点を教えてほしい。(丹羽氏)

・ 漢方薬市場は1200億円程度であり、市場規模としては大きくない。また、医薬品市場は全体で6.5兆円あるが、医療費を抑制していこうという政策対応がなされており、経済原則とは別のところで制限がかかっていることから大きな成長は望めない。一方、効能・効果を謳わない健康食品の市場は2兆円規模であるといわれているほか、特保も6,000億円程度はあり、漢方薬の市場はこれらに比べてずっと小さい。(合田氏)

・ 生薬のビジネスは、採算が非常に厳しい。5年程前の情報であるが、医療用生薬を扱うメーカー各社に確認したところ薬価基準収載されている約230品目のうち半数近くの100品目程度は経常的に採算が取れていないとの回答であった。現在、薬価改定の時期にあたっており、薬価の改善に期待したい。(浅間氏)

・ 世界を視野に入れると、欧米での生薬需要は大変伸びており、市場は10兆円規模を超える。安心・安全な「日本ブランド」として、世界に向けて輸出していけば生薬はビジネスになる。(渡辺氏)

・ 生薬産業を巡る問題を解明した上で、障害を撤廃して利益の出る産業にして、生産者の遣り甲斐や意欲を高めることが重要である。さもなければ、生薬・漢方薬がいくら身体に良いものであるといったところで、産業としては衰退していくことになる。(丹羽氏)

・ 生薬産業は決して大儲けは出来ないものである。関係者に聞くと、そこそこの利益が出ることは無論大事ではあるが、生薬を生産している社会的意義、国民の安全健康にとって大事なことをしていることをきちんと認めてほしい、との意見も聞かれており、単純に経済原則だけで商売をしているわけではない。(合田氏)

・ 産業は基本的に自立していくことが重要であり、ある産業に対して政府がいつまでも補助金を出すかたちになるのは政策として誤っている。もっとも、医薬品については、自由市場ではなく価格が固定されているという規制市場であるという特色を有してはいる。日本の医薬品・生薬の市場は小さいとしても、世界市場も含め、国としての戦略の立て方、攻め方はある。(涌井氏)

・ 生薬生産の社会的意義を認めることは大変重要であるが、同時にビジネスとしても成り立たせないといけないということであろう。(黒岩氏)

2.生物多様性条約の今後の交渉の影響

・ 生薬資源が有効であるかどうかは、伝統的知識によって裏づけられるものであり、その中から創薬もなされることを考えると「生物の遺伝的資源」と「伝統的知識」とはいわばカードの裏表の関係にある。今回の条約交渉については、生薬の輸入制限に波及するという問題もあるが、知的財産権の囲い込みの方により強い危機意識をもっている。例えば、冬虫夏草について仮に新たな有効成分が見つかり特許化しようとした場合に、中国が資源国として利益配分を主張するようなことが考えられる。(小野氏)

・ もしそうした理屈が通るのであれば、仮にレアメタルで特許をとった場合に産出国が利益配分を主張するようなことにもなりかねず、世界経済は大混乱に陥る。そうした理屈に合わない主張は絶対に認めてはいけない。日本政府はそうした主張が通らないよう生物多様性条約における交渉で頑張るべきである。(丹羽氏)

・ 資源保護・伝統的医療の国際ルール作りについては、色々な場で議論されており、それらを有機的・総合的に考えていく必要がある。例えば、EUが今回の条約交渉において条件付きながら賛成しているのは、環境保護の側面があり、排出権取引市場で利益を得たいという思惑と繋がっている。また、文化的な側面はUNESCOで議論されているし、伝統的医療に関連した疾病分類の議論はWHOの場でなされている。日本はそれぞれの国際交渉に各省庁がそれぞれの立場で参加してはいるが、政府としてこれらを総合的・戦略的に考えていくべきである。(小野氏)

・ 経済産業省ではCOP10の準備会合にも出ており、そうした問題意識は持っている。(木内氏)

・ 植物工場で生薬が栽培出来るようになれば、生物資源保護の問題についても緩和が期待できる。(阿川氏)

3.生薬の自給率引き上げのための諸方策

(1)植物工場の活用

・ 植物工場のネックが高コスト性であるとすると、むしろ野菜の生産で採算をとることは却って難しく、むしろ、生薬・医薬関係のほうが検討の余地があるのではないか。(阿川氏)

・   野菜の植物工場生産については、水や日光に乏しい地域であれば発展余地は大いにありうるが、潤沢なところでは採算ベースに載せるのは難しいであろう。
一方、生薬については、天然のものの確保が難しくなっていくという認識の下、経済産業省と厚生労働省とが協力して、税金も投入し、研究チームも作って、10年くらいかかるかもしれないが、国内での安定確保という政策目標をもって、植物工場での生薬生産を推進していくことが望ましい。本特別研究の提言にしても良いのではないか。(丹羽氏)

・ ものは考えようで、「植物工場」ではなく、これを「製薬工場」と考えれば採算がとれるビジネスになるのかもしれない。(黒岩氏)

・   植物工場がビジネス・レベルになることを目指して政策対応をしているが、医薬品原料として高付加価値化が出来るのであれば、植物工場における生薬栽培も考えられる。生薬の自給率引き上げの目標の下で厚生労働省が国益の観点から戦略的に生薬栽培をすすめるということになるのであれば、植物工場もそのツールとして連携していく余地はある。(杉本氏)

・ 植物工場での生薬栽培については、医薬品原料としての規格・品質を満たす必要があるので、農林水産省・経済産業省に加え、厚生労働省の3者の連携が必要である。(木内氏)

(2)従来型農業の活用――遊休地利用・転作による生産

・ 通常の農業地を活用するという観点も重要である。全国の遊休地は埼玉県と同じくらいの広さがあるが、農地での生薬栽培を進めていくことで国土保全と自給率引き上げの両方を目指すことが出来る。(仲家氏)

・ 葉タバコについては、農家と契約して全額JTが買い取っているが、日本国内のタバコの消費量が減少する中で減反しており、高齢化の中で廃業する農家もいる。転作についてもJT社内で議論はしているが、仮に生薬原料への転作を考えるにしても、価格保証でもしない限りは、葉タバコ農家に強制的にさせられるものでもない。また、沖縄など米作に向いていない地域では葉タバコを積極的に増産したいという声もあり、なかなか難しい。(涌井氏)

・ 農業だけで地場の農家は生活していけない中、「6次産業化」(=第一次+第二次+第三次産業)を進め、生産・加工・流通・販売が一緒になって農業生産を発展させていくことが重要である。大量生産でなく少品種高付加価値品を作っていく方策があるが、生薬栽培についてもtraceabilityを確保しながら高い品質の管理が求められるものとなろう。(仲家氏)

・ 農家がすばらしい野菜を生産しても、それで黒字経営が成り立つわけではなく、販売・物流面での企業のサポート、都心と地方との結びつけ方など、向こう5年の間――地方がもっと疲弊する前――にしっかり対策を講じていく必要がある。(新井氏)

・ 農業は特に自然が相手であり、作物が収穫されるまでの一定期間は収入が入らないといった問題もある。若い人の参入を促すためには、安定した経営が出来る目処を示していく必要がある。そうした産業としての特性・課題を整理したうえで、官民が分担して農村の活性化に向けてアイディアを出していく必要がある。(仲家氏)

(3)品質確保・品質保証等の重要性

・ 植物工場で生産した場合には、有効成分の含有量等が変わってしまって生薬としての有効性が不十分になる可能性もあることから、栽培品について天然生薬の品質と同等の有効性・安全性を確保できるようにすることが重要である。また、それと同時に生薬原料の品質評価方法を確立することも重要である。生薬は成分のバラエティが大きいので、この点については注意していかなければならない。また、日本薬局方は天然のものを念頭に置いていることから、タンク培養のものは仮に生薬と同等の有効成分があったとしても生薬とは認めていない。(木内氏)

・ 日本の生薬栽培が自立していくためには、生薬そのものの品質保証は非常に重要である。医療費抑制の流れの中で市場のパイを広げていくためには、一般利用に販路を拡大していく必要があるが、ここも品質保証力あってのものである。生薬の輸出まで展望するにせよ、海外でも一番厳しく品質が求められるものである。日本の生薬製剤産業については、品質保証力は圧倒的に高いことから、世界でもリードできるものがある。(合田氏)

・ 生薬が貴重で高価であるのは、農業プラス・アルファの部分があるからであって、品質保証が課題ならば、そこは政官の指導力でクリアさせていく必要がある。全ての責任を農家側に押し付けるのではなく、関係者が協力していくことが大事である。(新井氏)

・ 国内のパイを増やすという観点で言えば、漢方における新薬の創出が必要となる。生薬の有効性の検証をしっかりして、漢方薬の適応を広げていくようにしていかないと、漢方市場は発展していかない。(木内氏)

(4) 医食同源の観点からみた生薬資源

・ 生薬の自給率というときに、食物にも医薬的効果は沢山あるので、漢方薬についてだけで議論するのでは片手落ちである。医食同源の観点からすれば、食物を通じた養生医学も視野に入れる必要がある。(黒岩氏)

・ 長芋は日本から輸出されている農産物の中で2番目に多い品目で、台湾に多く輸出されている。健康増進の目的で利用されている食品は実に沢山あるわけで、これをリファインしていくと医薬品になることからすれば、生薬資源というものをもっと広く考えていくことは適当である。日本国民の健康確保のためにも、医食同源的な観点から本特別研究でいろいろ提言していくことは賛成である。(丹羽氏)

(5)適切な政策対応、国家戦略の重要性

・ 食料生産・生薬生産を一緒くたに議論するのではなく、植物工場生産に注力するもの、農地栽培が適しているものなど、しっかり切り分けて議論し、政策の方向付けをしていくことが大事である。(仲家氏)

・   生薬生産の棲み分け、適地生産は、産地の個性化・ブランド化をすすめることによって実現可能であるが、そのためにも流通の整備や取引対象となる産品の格付基準がポイントとなる。関係省庁が規制緩和をして、農商工業が総合力を発揮できるようにしてほしい。(安永氏)

・   例えば、紫蘇は1年草で葉が生薬原料となるものであるが、産地が台風にあって全滅し供給がなくなり非常に困ったことがある。そういったものは天候に左右されない植物工場で生産するのが向いている可能性があり、一方、人参はタンク培養が可能となっているなど、生薬の性質・実現しうる技術に応じて対応の仕方を変えることが適当なのではないか。その生薬の生産方法の割り当てのグランドデザインを描く部署が必要である。(渡辺氏)

・ また、生薬の国内栽培という点では、国内で種苗自体が失われつつある現状に照らし、まずは種苗を国としてきちんと確保していくことが重要である。(木内氏)

・ 韓国では、人参の高付加価値品である「紅参」を国の戦略的商品と位置づけて専売公社で扱っている。こうした国家戦略が重要である。(黒岩氏)

・ 生薬は人間にとって必須のものであり、自然・天然に任せずに安定的に量を確保していく必要がある。「安全・安心」を担保しつつ「生薬資源の安定確保」を実現すべく、国としてしっかり対応していく必要がある。そのためには健康・安全を確保するために国民として相応のコストを払っていくこと、すなわち税金投入も必要となるが、そうした施策について、本特別研究で提言していく必要がある。そこには(1)植物工場といったプロジェクトを軌道にのせるための政策対応も入ってくるであろうし、(2)薬価の見直しも入ってくる。薬価を見直していかないと、日本では研究開発費が賄えなくて企業が海外で特許をとっていくということになってしまう。(丹羽氏)

・ 生薬栽培は、休耕地の活用といった地域振興、植物工場・バイオなどの新規産業育成の両面で経済活性化の起爆剤足りうるものであり、成長産業の一つとして位置づけられる。関係省庁が連携して、国家的プロジェクトとして進めていってもらいたい。(黒岩氏)

以 上