【研究の概要】
漢方・鍼灸の積極的活用を通じた「新しい日本型の医療」創生に向けた諸課題の検討
1.日本の医療の直面する諸問題
(1)日本の医療は、明治以来百数十年に亘り、西洋医学の発展を基礎に国民の福利厚生の向上に大きく貢献してきた。もっとも近年は、高齢化社会が急速に進展する中で、臓器別治療をベースとする臨床医療の効率性低下や、専門化の行き過ぎによる総合医・家庭医の不足など、西洋医学だけでは解決しえない問題や現行医療制度の歪みが明らかになりつつある。
(2)また、医療の高度化は着実に進んでいるが、ガンをはじめとする難病の治療や慢性病・不定愁訴の治療といった難題には未だ十分対応出来ておらず、とりわけ患者のQOL向上面については、なかなか思うような成果が挙げられていない。
2.政策転換の要請
(1)こうした医療を巡る諸問題は一朝一夕に解決出来るものではない。とはいえ、わが国においては、明治初期以来、医療現場での脇役に据えてきた伝統医学――漢方・鍼灸――の特性を活かしていき、これを臨床で一段と積極的に利用することが出来れば、上記課題についても一定程度は解決しうると考えられる。
(2)多くの先進国でも、多かれ少なかれ日本と同様の問題を抱えつつあるが、そうした中で、伝統医学の見直し機運が世界的規模で高まっている。呼び名は色々あるとしても、西洋医学を引き続き医療の柱としつつも、「西洋医学と伝統医学の有機的・建設的なコラボレーションを通じ、国民の福利厚生の向上を図る」動きが強まっている。
(3)一方、生薬資源は世界的に逼迫してきているほか、WHO(世界保健機構)やISO(国際標準化機構)の場における「伝統医学の国際標準化」を巡る覇権争いが厳しさを増している。わが国としては、行政面での立ち後れもあってこうした国際的な動きにかかる対応が後手に回っているが、自国医療を改善していく基盤の確保・環境作りの観点からも、官民挙げて対応を急ぐ必要がある。
3.本特別研究の目標
(1)上記のような状況認識に基づき、本特別研究では、漢方・鍼灸医学について、まずはその現状や課題を洗い出した上で、これを活用した「新しい日本型の医療」を創生するためにはどのような施策を講じていくことが必要なのか、を調査・検討することとする。
(2)具体的には、1)科学的根拠(エビデンスの確立)、2)人材(専門的な医療従事者の養成)、3)生薬資源(安定的確保と地域振興)、4)情報発信(社会全般における理解の深耕)、5)体制(調査・研究機関の整備等)、6)国際的な課題への対応、といった多面的な側面から調査・検討を進める予定。
研究班の構成
氏名 | 所属 | |
---|---|---|
黒岩祐治 (班長) | 国際医療福祉大学大学院 | 教授 |
石野尚吾 | 昭和大学医学部 第一生理学 | 教授 |
合田幸広 | 国立医薬品食品衛生研究所 生薬部 | 部長 |
宮野 悟 | 東京大学医科学研究所 ヒトゲノムセンター | 教授 |
北村 聖 | 東京大学医学部 医学教育国際協力センター | 教授 |
木内文之 | 慶應義塾大学薬学部 天然医薬資源学講座 | 教授 |
西本 寛 | 国立がんセンターがん対策情報センター がん情報・統計部院内がん登録室 | 室長 |
渡辺賢治 | 慶應義塾大学医学部 漢方医学センター | センター長准教授 |
塚田信吾 | 日本伝統医療科学大学院大学 | 教授 |
関 隆志 | 東北大学医学部 先進漢方治療医学講座 | 講師 |
阿相皓晃 | 慶應義塾大学医学部 漢方医学センター | 教授 |
天野 暁 | 東京大学・食の安全研究センター | 教授 |
研究協力者
氏名 | 所属 | |
---|---|---|
大竹美喜 | アメリカンファミリー生命保険 | 最高顧問 |
涌井洋治 | JT | 会長 |
丹羽宇一郎 | 伊藤忠商事 | 取締役会長 |
新井良亮 | JR東日本 | 代表取締役副社長 |
原 丈人 | デフタ・パートナーズ アライアンス・フォーラム財団 | 会長 代表理事 |
武藤徹一郎 | 癌研究所有明病院 | メディカルディレクター・名誉院長 |
清谷哲朗 | 関東労災病院 | 特任副院長 |
阿川清二 | 鹿島建設 医療福祉推進部 ライフサイエンス推進室 | 室長 |
長野 隆 | オリンパス株式会社 マイクロイメージングシステムズ事業部 MIS営業1部 生物営業企画グループ | 課長 |
石田秀輝 | 東北大学環境科学研究科 | 教授 |
清水 昭 | ヘルスクリック エミリオ森口クリニック | 代表取締役 院長 |
安永大三郎 | 日本シルクバイオ研究所 | 代表 |
岡崎 靖 | 日本製薬工業協会 | 研究振興部長 |
検討課題
1.科学的根拠(エビデンスの確立)
- 臨床面における科学的知見の蓄積
- システムズ・バイオロジーを活用した新規臨床エビデンスの創出
- 作用機序解明のための基礎研究の充実
- 医療情報の基盤整備
- 国際共同研究の推進
2.人材(専門的な医療従事者の養成)
- 医学部の卒前教育の充実
- 医師の卒後研修の充実
- 鍼灸師の研修機関の充実
3.生薬資源(安定的確保と地域振興)
- 国内生薬栽培の奨励政策および自給率向上の数値目標設定
- 地域振興事業との連携
- 中国等における生薬の栽培支援
- 創薬事業の研究支援
4.情報発信(社会全般の理解の深耕)
- 情報発信機能の整備
- 市民教育事業
5.体制(調査・研究機関の整備)
- 国内主要拠点の整備
- 国内協力機関の整備
6.国際的な課題への対応
- WHOとの協力体制の整備・国際標準化への対応
- 東アジア伝統医学コンソーシアムと学術交流
- 諸外国における漢方医・鍼灸師の育成・支援
- 諸外国での医療への積極的な貢献
付.シミュレーション
- インフルエンザ対策に漢方薬を活用した場合の医療経済効果
- 生薬の国内栽培自給率引き上げのための条件
【研究の概要】
漢方・鍼灸の積極的活用を通じた「新しい日本型の医療」創生に向けた諸課題の検討