平成21年度厚生労働科学研究費補助金による厚生労働科学特別研究事業
『漢方・鍼灸を活用した日本型医療創生のため調査研究』
【第2回会合】『科学的根拠の現状と課題(エビデンスの創出のために)』概要
日時:2010年1月18日(月)14時~16時
場所:慶應義塾大学医学部・新教育研究棟講堂2
出席者リスト(当日の出席者は氏名の左に○印)
1.研究員
○黒岩 祐治 (班長) | 国際医療福祉大学大学院 | 教授 |
寺澤 捷年 | 千葉大学医学部和漢診療学講座 | 教授 |
石野 尚吾 | 昭和大学医学部第一生理学 | 教授 |
○合田 幸広 | 国立医薬品食品衛生研究所生薬部 | 部長 |
○宮野 悟 | 東京大学医科学研究所ヒトゲノムセンター | 教授 |
北村 聖 | 東京大学医学部医学教育国際協力センター | 教授 |
○木内 文之 | 慶應義塾大学薬学部天然医薬資源学講座 | 教授 |
西本 寛 | 国立がんセンター がん対策情報センターがん情報・統計部院内がん登録室 | 室長 |
○渡辺 賢治 | 慶應義塾大学医学部漢方医学センター | センター長准教授 |
○塚田 信吾 | 日本伝統医療科学大学院大学 | 教授 |
○関 隆志 | 東北大学医学部先進漢方治療医学講座 | 講師 |
○阿相 皓晃 | 慶應義塾大学医学部漢方医学センター | 教授 |
○天野 暁 | 東京大学・食の安全研究センター | 教授 |
2.研究協力者
大竹 美喜 | アメリカンファミリー生命保険 | 最高顧問 |
涌井 洋治 | JT | 会長 |
丹羽 宇一郎 | 伊藤忠商事 | 取締役会長 |
新井 良亮 | JR東日本 | 代表取締役副社長 |
原 丈人 | デフタ・パートナーズアライアンス・フォーラム財団 | 会長代表理事 |
○武藤 徹一郎 | 癌研究所有明病院 | メディカルディレクター・名誉院長 |
清谷 哲朗 | 関東労災病院 | 特任副院長 |
○阿川 清二 | 鹿島建設 医療福祉推進部 ライフサイエンス推進室 | 室長 |
○長野 隆 | オリンパス ライフサイエンスカンパニーMIS事業部バイオ国内営業グループ | グループリーダー |
石田 秀輝 | 東北大学環境科学研究科 | 教授 |
○清水 昭 | ヘルスクリックエミリオ森口クリニック | 代表取締役院長 |
○安永 大三郎 | 日本シルクバイオ研究所 | 代表 |
岡崎 靖 | 日本製薬工業協会 | 研究振興部長 |
3.プレゼンター等(上記1、2掲載分を除く)
○開原 成允 | 国際医療福祉大学大学院 | 教授 |
○対馬 ルリ子 | ウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック | 理事長・院長 |
Ⅰ.概要
1.(1)漢方の特性を活かした臨床データの蓄積については、個々の患者にかかる多面的なデータを集積する「データ・マイニング」の手法が向いており、(2)より多様なデータの蓄積を図るとともに、(3)それは西洋医学においても有効なアプローチとなることから、医療情報を東西医学が協働して集積していくことが望ましい、との共通認識がみられた。
2.一方、漢方医学のエビデンス作りの前提としては、生薬・漢方薬(処方)の品質の標準化が必要となるが、そもそも生薬が天然由来であること等からこれを実現することが相当難しいという現状認識の下、今後の標準化の有り様について学会等で議論の場を作っていくことが適当であるとの意見がみられた。
3.鍼灸の科学的エビデンス集積のためには、医療機関で鍼灸治療を一般に行えるような環境作りが必要であり、そのためには鍼灸教育の充実や医療制度の見直しを進めるべきとの問題提起がみられたが、この点については今後も討議を続けることとされた。
Ⅱ.プレゼンテーション
1.漢方の臨床エビデンスの現状と新規エビデンス創出に向けた動き(渡辺氏) [PDF 資料]
(1)漢方薬は、医療の現場において8割の医師が使うようになってきているが、実際には限定的な使われ方しかされていない。これは治療効果にかかるエビデンスが少ないためであり、科学的エビデンスの充実が急務となっている。
(2)もっとも、漢方・鍼灸といった伝統医療は、(a)患者一人ひとりに即した個別化治療を柱とする、(b)検査値などの客観的指標では評価しにくい患者の主観を重視する、(c)「証」を元にして治療方法を決定する、といった特徴を有することから、西洋医学におけるエビデンスの示し方として最も一般的な手法である「無作為比較試験(RCT)」を行うのは向いていない。
これに加え、(d)既に臨床の現場で使われている医療であり、そうした膨大な労力・時間・費用をかけてまでRCTを行うインセンティブも起こりにくい状況にあることもあって、RCTの事例として発表されているものはごくごく限られている。
(3)こうした中、臨床における漢方医療の効果の科学的エビデンスを集積する上では、その手法そのものも見直す必要がある。上記特性を活かすためにも、個々の患者にかかる多面的なデータを集積し、大規模なデータベースとした上で解析し、そこから発見されたパターンやルールを導き出す「データ・マイニング」の手法をとることが適当である。
(4)同手法に基づく研究として、慶應義塾大学を中心に、次のプレゼンターである宮野教授の協力を仰ぎながら、個々の患者が自分の症状等についての主観的評価を入力する一方、医師側がそれらをみつつ「証」の診断や処方についての情報を入力していく『自動問診システム』を開発し、臨床の場でデータ蓄積を図っている。
2.複雑系を解析する新しい臨床エビデンスの創出(宮野氏) [PDF 資料]
(1)『自動問診システム』(『問診くん』)は、患者が自分自身の症状等について、システムのナビゲートに沿って入力するものであるが、患者にとって決して扱いが難しいものではない。症状の程度等の問診項目については、適宜自分の主観を画面上のスケール上において示すことで、それが数値化される(注)仕組みとなっている。
(注)VAS(Visual Analog Scale)値。
(2)慶應大学の漢方医学センターに訪れる患者の協力により、既に約3,500例が蓄積された。これによって、新しく来院してきた患者について、訴える症状と自覚症状に基づきタイプ分けをし、同様のタイプの患者について数学的に抽出してそれらの漢方による治療効果の推移と比較することで、当該患者が向こう3ヶ月間に治っていく確率を導出することがかなり高い精度でできるようになっている。
注目する問診項目は疾患毎に違ってくるが、例えば「左足の冷え」という症状については、117個の問診項目から同様の症状を訴えるタイプを抽出するのにもっとも役に立つ35個の問診項目を機械学習数学的手法で自動的に選び出してモデル化している(注)。今後さらに入力される症例が増えていくことで、(どのような症状を有する人であれば、どんな漢方薬によって、どのような効果が得られるかについての)予測精度が一段と高まることが期待される。
(注)「Elastic Netによるロジスティック・モデルによる推定」を利用。
(3)こうした科学的エビデンスを創出し、治癒の確率も予測出来るような研究をしていくことを通じて、漢方医学を発展させていく必要がある。逆に言えば、このような科学的エビデンスがなければ、漢方医学に税金を使うことに関して国民的な合意を今後得られなくなるのではないか。
3.漢方のエビデンス創出に向けて―生薬の観点から―(木内氏) [PDF 資料]
(1)生薬は天然物由来であることからそもそも品質にばらつきのあるものである。漢方医療はもともと個別性の高い治療である中、歴史的には漢方医自身による匙加減で煎じ薬の品質をうまく調整していた。その後、エキス製剤が健康保険適用となって大変普及したが、薬剤メーカーではこの成分含有量等を一定に保つように努力してはいるものの、完全に品質をコントロールできている訳ではない。したがって、漢方薬の科学的エビデンスをみていく上では、こうした生薬特有の品質のばらつきの問題――化学的に合成された医薬品とは異質の特性を有している点――を認識しておく必要がある。
(2)具体例を挙げると、一般に使われている「葛根湯エキス製剤」には同じ処方名でありながら実は4種類もの処方が認められており、それらは構成生薬やその量が異なるのみならず、個々の処方の中でも指標成分含有量については一定の範囲内にあればよいとされている。こうしたことから、実際には同じ「葛根湯エキス製剤」という処方名の下で、指標含有量でみて最大4倍程度のばらつきが出てくることになる。したがって、「葛根湯エキス製剤」の臨床データの成績を解析する上で、これらの異なる処方を一緒に扱うことには好ましくない。
(3)同様に、「柴苓湯(サイレイトウ)エキス」や「補中益気湯エキス」では、処方によって構成生薬としてビャクジュツ又はソウジュツのいずれかを使う格好となっているが、当然起源となる植物が異なれば入っている成分が違うこととなる。さらに、その生薬自身についても、おなじビャクジュツ又はソウジュツといっても、生育場所等によって構成成分パターンが大きく異なるものが存在している。
(4)このように、漢方薬の処方及び生薬自体に多様性が存在している現状の下で、異なる研究者間の結果を比較できるようにするためには、研究レベルにおいては「同一ロットのエキス製剤・生薬を用いたもの」を「同一の薬」として扱った上で成績を解析することが必要である。そのプラットフォームとして、成分パターンが一定した生薬を薬理試験用として供給する体制を構築することが望ましい。
また、野生の生薬と栽培した生薬とでは成分パターンが異なることがあるが、栽培種が薬効のある良い生薬であるかどうかの判断基準を作るためにも、一定の品質の生薬と比較していくアプローチは必要である。
(5)一方、臨床の場においては、引き続き生薬・漢方処方の多様性を維持しておくことが有用である。一つの生薬には多様な有効成分があり、その生薬の使用目的によって重要となる有効成分が異なることがあることから、必ずしも「指標成分含量」の高い生薬が良いとは限らない場合がある。
4.日本の鍼灸のエビデンス創出に向けて(関氏) [PDF 資料]
(1)現在、WHO及びISO(国際標準化機構)の両方の場において、伝統医学を国際標準化して取り入れる動きが進んでいるが、そうした中で各々の国の伝統医学について科学的エビデンスを示していくことが求められている。
また、現代医療の抱えている課題をみても、超高齢化社会を迎え、医療費が増大傾向を辿る中で、その打開策として、個々人の症状に応じた医療、全人的医療・統合医療といったものが標榜されているが、なかなか具体性を帯びていない状況にある。
こうした中で、鍼灸についても積極的に科学的エビデンスを蓄積し、内外に示す必要性が高まっている。
(2)一方、鍼灸の特性に鑑み、科学的エビデンスを創出していくことは相当困難を伴う。すなわち、鍼・灸のいずれも「二重盲検」にはなじまない治療方法であるほか、治療方法がそもそも多様であるのみならず、その定量化・均一化も難しい。こうしたこともあって、鍼治療はまだしも、灸についての科学的エビデンスを示した論文は殆ど見られないのが実情である。
(3)世界の動きをみると、ドイツにおいては、鍼治療が健康保険の対象として広く認められているが、日本と同様高齢化・医療費高騰の課題を抱える中で、数年前には鍼灸の科学的エビデンスを改めて評価し保険適用としうる疾病を取捨選択する必要に迫られた。同国では、極めて大規模な鍼治療のエビデンス調査を行い、その結果を踏まえて有効とされた疾病については健康保険の適用を昨春から行っている。
(4)一方、日本での鍼の臨床研究は非常に乏しいが、それにはそもそも鍼灸にかかる教育体制の不十分さ・医療制度の問題が根幹にあるように思う。
教育体制をみると、中国・韓国では専門教育を5-6年間みっちり受けた伝統医学の医師に鍼灸ライセンスが与えられている一方、日本では、鍼灸が医業として認められていない中で、(a)医学部では鍼灸教育を全くしないことから鍼灸について無理解な医師が大半であるほか、(b)鍼灸専門学校でも駆け足のカリキュラム(大部分が3年間に留まる)に留まっているため臨床経験の乏しい鍼灸師を多く生み出すかたちとなっている。
また、医療制度面をみると、殆どの疾病について健康保険の適用対象外で、混合診療が禁止されている(自由診療とせざるを得ない)など、病院で鍼治療を行う上でのハードルが高く、経営的にも旨みがない。こうしたことから、医療機関の中で鍼灸治療が一般的にはなされておらず、このため(単なる愁訴を抱える人ではなく、医療機関で治療を受ける対象である)患者に対する臨床研究を行うことが事実上無理なかたちとなっている。
(5)現在、患者にとって安くて安全で効果のある治療、個別化治療・統合医療が求められているが、エビデンス創出なしに鍼灸の健康保険適用はありえない。
前述の諸問題――鍼灸教育、医学部卒前教育、医療制度――を見直し、科学的エビデンス創出に必要な国内体制を整備することが必要で、そのためにも伝統医学振興のための政府機関を創設し、国家として積極的に伝統医学をサポートするプロジェクトを推進してほしい。まずは、海外での科学的エビデンスを援用しつつ健康保険適用していってはどうか。
なお、病院内で鍼灸治療を行うようになっても、それが現在開業している鍼灸師の経営を脅かすようなことにはならないと考えている。
Ⅲ.討議
1.「データ・マイニング」による臨床エビデンスの創出
(1)手法の有用性
・ 今回の研究手法であれば「データ・マイニング」というよりは「ロジスティック分析」といってよいのではないか。(開原氏)
・ 「データ・マイニング」としているのは、多変量のデータ集積から治療の有効性を導出しうると考えているためで、今回の手法はその一つの例示に過ぎない。(宮野氏)
・ 今回の手法は、個々人の特性を肌理細かくタイプ分けしながら、治療の成績をみていくというものであるが、そうしてみると被験者を2つのグループに分けて薬効をみる従来型の「無作為比較試験(RCT)」はかなり大雑把なやり方であるし、(統計的に有意である程度の差しか見られなくても)一旦「有効」とされたらその評価が絶対とされる点でも問題がある。今回の手法は、漢方に限らず医療全体のエビデンスの採りかたへの問題提起に繋がるのではないか。(黒岩氏)
・ RCTは、その薬を使ったときに効果があるかないかしかみていない。一方、今回のアプローチは、むしろどのような体質・症状であれば効くのか、患者をカテゴリー分けをしていくアプローチであり、評価できる。(開原氏)
(2)対象データの拡充
・ 漢方医学では伝統的に「証」という概念で診断しているが、今回の手法を使って、今まで言われてきた「証」が正しいのか、経験値を現代的に解析できるようにしたい。(渡辺氏)
・ 『問診システム』では、自覚症状について問診情報を入れることとしているが、臨床的には、実は他の生活環境における要素――食生活、運動、ストレス等――も知っておくことが大変重要である。これら複合的な項目も問診システムの入力対象とし、総合的に患者の状況を評価するようにしてほしい。(対馬氏)
・ 第一回の会合における天野氏の指摘にもあった通り、食事・生活環境の要素は非常に大きい。これらについてもデータ集積してはどうか。(長野氏、黒岩氏)
・ 今回の研究は、まずは科学的エビデンスを採りうることを示すのが目的であったが、今後これを基に研究・データ収集の対象を広げていくことは可能である。伝統的な診断方法の中で、脈診については客観性をもったデータ解析を実現することは難しいが、舌診であれば、写真をとって工学的・数学的に判定することが可能となりうる。(渡辺氏)
・ 解析する側からすれば、入力データは無論多いに越したことはない。もっとも、患者側の入力負担とのバランスをとることが必要で、今後入力負担の軽減に向けての何らかのシステム的な工夫が待たれる。また、のべつ幕無しにデータをとっておくのは現実的ではなく、解析方法を予め想定してこそそれに役立つデータを効果的に蓄積出来ることになる。(宮野氏)
(3)データ拡充の必要性と方策
・ こうした個々人の多面的なデータはデータ量がかなり蓄積されてこそ有益な解析が出来ることになるので、沢山のデータを集めるための工夫、予算付けの工夫が必要である。(阿川氏)
・ 薬の副作用を見つけ出すにも、膨大な個人の多面的なデータの集積が必要であり、厚生労働省において今回の研究と同様の議論をしているので、連絡をとりあってはどうか。(開原氏)
・ 西洋医学における電子カルテ化・医療情報集積に向けての動きの後追いではなく、東西医学の視点を融合させ、双方の情報を一緒に集積していくかたちが良いのではないか。(渡辺氏、黒岩氏)
(4)電子カルテ整備の現状
・ 中国・上海では、拠点病院を作って電子カルテ化を進めており、既に100万件ものデータの解析を行っている。また、韓国でも国全体で電子カルテが整備されており、伝統医学関係を含め入力データの標準化が進んでいる。これに比し、日本での対応は非常に遅れている。(渡辺氏)
・ 日本の現状をみると、実は「電子カルテ化」自体はまずまず進んでいるといえる。しかし、医療関係者が、従来型のカルテについてでさえも、情報共有することに対して伝統的に非常に消極的な姿勢であったことが祟って、そうした電子カルテの標準化は極めて遅れている。静岡県では、数箇所の病院が協力してデータを共有しうるかたちの電子カルテ・システムを作っているが、これが全国的に広がるかどうかについては楽観できない。(開原氏)
・ 現在、ISOの技術委員会の一つ(TC215)で、疾病分類の電子カルテ化についての議論が進んでおり、その中に伝統医学関連の情報も盛り込むことが出来るかたちとなっている。(関氏)
・ 個々人の多様性を示す情報の究極的な姿は、その人のヒトゲノムの全情報を入れることであるが、そうした情報まで「電子カルテ」に入れるべきなのか、個人情報保護との問題もあり、どう折り合いをつけるかは難しい。海外での状況については詳しくないが、数年のうちには簡単に個々人のヒトゲノムを解析することが技術的には可能となるだけに、その情報保護に関して危機意識は持っている。(宮野氏)
2.生薬・漢方薬の品質の多様性
(1)「漢方薬の科学的エビデンス」の意味
・ 「漢方薬の科学的エビデンス」とは、個々の生薬や成分ではなく、「個々の処方(=生薬の組み合わせ)」が「どういう症例」に「どの程度有効か」を示すことであると思う。ちなみに、既に個々の構成生薬・指標成分自体(例えば、麻黄であればエフェドリン)についての研究はある程度進んでいるが、それらが組み合わさった漢方薬の処方において、個々の生薬がどのくらい寄与しているかはまだ解明されていない。(木内氏)
・ なお、今回の提案は、あくまで「薬効の研究対象とする場合に限っては標準的なものさしとする漢方薬の処方を決めておくことが必要」ということであり、実際に治療の現場で使われている多様な品質のものまでを標準化しようということではない。(木内氏)
(2)漢方薬の品質の安定化の難しさ
・ 漢方薬について同じ品質を確保することは、それを実現するためのコストとセットで考える必要がある。(塚田氏)
・ 昔であれば漢方医が一つ一つの生薬を選定・買付までしていたので、個々の材料の違いを見極めた上で煎じ薬のところで匙加減していたが、そこまで漢方薬の品質を多様化させては科学的エビデンスの採りようがないので、現実的には、決まった「エキス剤」に絞って薬効研究していくことになろう。(渡辺氏)
・ 医薬品の品質の標準化と臨床での薬効の研究とは表裏一体の関係にある。天然物そのものに品質のばらつきがあり、加工処理段階でもばらつきが出るなど、漢方薬を作るにあたっては変動要因が大変多いので大変である。(合田氏)
(2)品質の標準化に向けた議論の必要性
・ 日本の薬剤メーカーは、自社製品の品質の安定化に向けて努力はしているが、実際にどこまで品質を揃えられているかは明らかにしていない。欧米ではこれを公にしながらどういう医薬品が作れるのかという議論をしている。日本でもそうした状況にしないと、品質の標準化やコストについて生産的な議論は出来ないが、生薬についてはそれがどれくらい現実的なものか分からない。(合田氏)
・ 「データ・マイニング」の手法をとるのであれば、同一処方名で処方の異なる漢方薬などを使っても、研究対象たりうる臨床データは十分集められるのではないか。(黒岩氏)
・ 変動要因が多いままに、分析対象とすることは可能であるが、変数が増えるほど必要データが増える筋合いにあるし、そうした変動要因を極力少なくしないとデータの再現性が確保できなくなる問題がある。
やはり、限られた臨床データを使ってはっきりものを言えるようにするためには、出来る限り漢方薬の品質が揃っていることが望ましい。(合田氏、木内氏)
・ どこかに「これが標準・基準」というものを定義し、そこからずれた残りの部分を「変動要因」と出来て始めて「解析」していくことが出来る。(宮野氏)
・ 医師・薬剤メーカー・データ解析者の3者が協力し、臨床データを揃えていくことが必要で、その具体的な実現方法については学会レベルで議論を深めていくべきである。(木内氏)
・ 今回の会合の場で実際の標準・基準作りまで行うのは当然無理である中、まずは「そうした議論の場を作るべき」と提言していくことではどうか。(渡辺氏)
3.鍼灸におけるエビデンスの創出
(1)院内での鍼灸治療
・ 中国では、病院の中で鍼灸治療する制度が出来ているが、日本では院外で鍼灸師が開業するかたちで鍼灸治療が根付いている。今後は院内で鍼灸治療を行えるように環境を整備していくことが重要である。(黒岩氏)
・ 医師と鍼灸師とが制度的に分かれてしまってから100年以上経っており、双方の立場の違いによる問題の認識の仕方の相違については今後とも留意していく必要がある。世界に向けて鍼灸の効果をアピールする上では病院内で鍼灸治療を行うことが望ましいと主張しても、開業鍼灸師の中にはそうした動きとは独立したかたちで患者を治療をしていくことを希望する向きもあろう。(塚田氏)
(2)科学的エビデンスの集積
・ 癌研有明病院では、術後の疼痛管理の分野において鍼灸治療を永年活用してはいるが、科学的エビデンスの集積はしていない。(土屋氏)
・ 熟練した鍼灸治療への患者の満足度は高いので、そうした匠の技にかかる情報を集めていくことが重要である。それには、(規模の小さい開業鍼灸師が多数存在することから)簡便な臨床データ入力システムでデータを集積していくことが現実的であろう。日本の鍼の施術回数は他国と比べてもかなり多いと考えられるので、少なくとも鍼灸治療の安全性にかかる科学的エビデンスは集めうるのではないか。(塚田氏)
(3)鍼灸師教育の充実
・ 直面している課題について前向きにとらえると、技術力の高いベテラン鍼灸師はまだまだ沢山活躍している。この現状を活かして、技術継承と世界への発信とを実現していくためにも、教育システムの充実が必要である。(塚田氏)
・ 鍼灸の教育制度の問題については、第一回の会合でも議論が十分に出来なかったが、今後とも継続的に議論していくこととしたい。(渡辺氏)
以 上